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『こだわり克行の笑顔』佐野美樹さんの著者インタビュー

もり塾ライター養成講座、プロのインタビューに学ぶ

2024年5月に『こだわり克行の笑顔』を出版した佐野美樹さん。
佐野さんの息子克行さんは自閉症です。克行さんが生まれて23年、日常生活の中で戸惑うことが多く、今も子育てに迷いを抱えていると佐野さんは言います。それでもさまざまな経験を積み重ねる中で、もしかしてどなたかのヒントの一助になれば……と本を出版されました。

今回、もり塾「編集ライター実践コース」の講義の一環として、人物インタビューを得意とする鈴木裕子さんに、佐野さんのインタビューをしていただき、以下のとおり一人称記事としてまとめていただきました。

いまや、「発達障がい」という言葉は多くの人に知られるようになりました。

実際、発達障がいの子どもが増えているといわれています。大人になってから、「ずっと感じていた生きづらさは、発達障がいが原因」とわかる人も少なくないようです。

発達障がいは、生まれ持った脳の障がいとされています。また、食事や環境、病気などによって発達障がいに似た症状がみられる子どもたちもいるといわれ、さまざまな症状や個性があります。 

自閉症は、その一つ。とくに「こだわり」が強い傾向があり、人とのかかわりを持ちにくい。そこに、本人のこだわりが見えることがあります。

私の息子、克行(かつゆき)もその一人。最初のうちは、何にこだわりがあるのか全く予測がつかず、突飛な行動をする彼にどう関わればいいのかわからず、途方に暮れることも多くありました。
 
そんな克行と私とのつきあいも、23年。まだまだ戸惑うことや迷うこともありますが、それでもさまざまな経験を積み重ねる中で、発達障がいの特性について、発達障がいの子どもとの関わり方、そして何より克行という人間のことが少しずつ理解できるようになってきたような気がします。

そうした私の経験や学びが、「うちの子は、もしかすると発達障がいかも」と不安を抱えていたり、わが子が自閉症だとわかって悩んでいたり、いままさに子育てに迷っていたりしているどなたかのお役に立てるかもしれない。

そう考え、克行とのこれまでを1冊にまとめました。それが、本書です。

目次

認めたくない、でも、認めなければ……

私は、看護師を経て、今は保健師として働いています。
結婚を機に、東京から夫が暮らす山梨に移りました。

2000年9月26日、克行は佐野家の長男として誕生。体重3048グラム。元気な産声を上げ、五体満足で生まれてきてくれて心からホッとしたことを、今でもはっきりと憶えています。

私には、克行より4歳年上の娘、望がいます。彼女は骨盤位、いわゆる逆子でした。逆子の場合、帝王切開になることも多いのですが、そうなると入院が長引き、回復にも時間がかかります。また、私自身、自然分娩への憧れもあって、逆子のまま娘を出産することに。ただ、その影響で娘は先天性股関節脱臼と知的障がいを持って生まれました。

そうした経緯があったので、克行が身体的なトラブルもなく生まれてきてくれて本当によかったというのが、正直な気持ちでした。

実際、克行は運動面でも発達面でも特に気になるところはなく、順調に育っていました。

ただ、少し気になることがありました。言葉を発することがなく、ニコニコしているだけで、私と視線を合わせようとしないのです。

職業柄、発達障がいについてある程度の知識は持っていたので、「もしかしたら、自閉症なのでは?」という不安が頭をよぎりました。

克行の診断名を知りたいけれど、その一方で、認めたくないという気持ちがありました。
健常であっても言葉がお子さんはいます。克行もそうなのではないか。

その一方で、もし自閉症であるなら、認めざるを得ません。わが子をありのまま、丸ごと受け止めたい。

でも、やっぱり認めたくない……。

とても複雑な気持ちでした。

そのうち、克行が突飛な行動をするようになりました。

克行は1歳から保育園に通い始めたのですが、半年ぐらいたった頃、お迎えに行くと先生から「克行君は雨の中、外へ走りだしました」と言われたのです。

私は、克行がもう走れることに驚いたと同時に、「普通の子は、雨の中、走り出したりしないよね?」と思いました。

ただ元気なだけ?
それとも、発達に何か問題があるの?

また、2歳を過ぎた頃のこと。さっきまで1階にいた克行の姿が見えません。2階へ上がると、開けていないはずの窓が開いている。

まさか……と思って窓に近づくと、克行が両手を万歳した状態でベランダの格子を握りしめ、足をぶらぶらさせてぶら下がっていたのです。

その後も、克行の予測のつかない行動にどれだけ命が縮む思いをしたことか。

まさに、毎日がハラハラドキドキの連続でした。

「人生を楽しんでいるから、見守っていて」

克行にはっきりと自閉症の診断が下ったのは、3歳のときです。
それまでにも、克行に自閉の傾向がることは小児科のホームドクターにも言われていましたし、私も保健師として、そう感じていました。

3歳になったのを機に、療育手帳を取得しようと児童相談所を訪ねました。言葉の遅れや多動、一人で判断してどこかへ行ってしまうことなどを医師に伝えたところ「自閉の傾向があります」と言われたのです。

自分でも薄々わかっていたということもありますが、医師にそう言われてショックを受けるどころか、かえってホッとしました。

ここからは、克行にどう接し、どのように育てていけばいいのか。どうすれば克行の個性や特性を伸ばすことができるのか。それだけを考えていこうと、腹が決まったというのでしょうか。

夫とは、それまでも娘の療育に関して協力体制ができていましたし、夫の母もサポートしてくれていました。

ここからは、さらに家族で力を合わせ、克行に楽しく気持ちよく過ごしてもらうために、できることは何でもやっていこう。そう考えられるようになったのです。

胎内記憶の研究で知られる、医師の池川明先生が「子どもは親を選んで生まれてくる」とおっしゃるように、克行も私たち夫婦に何かを学ばせるために、選んで生まれてきてくれたのでしょう。克行は、私に学びの機会を与えてくれているのですね。

最初の頃は、私の予測がつかないことばかりする克行に、「何やってるの! 何でそんなことをするの?」と言っていました。でも、そう聞いたところで克行は答えられず、ただ私の言ったことをオウム返しするだけ。

そこで、私は考え方を変えました

よく「物事はすべて、原因があって結果がある」と言いますよね。
克行が何かをしたとき、私にはそれが突拍子もないことに思えても「彼にはそうするだけの理由があるのだ」と受け止めることにしたのです。

小学校の頃、連絡帳に先生から「今日は、克行君は掃除用具入れの中にいました」「教室の壁に穴を開けました」というメッセージがあれば、「そうか、克行は掃除用具入れの中が心地よかったんだな」「家でも階段の壁に穴を開けちゃったけど、穴を開ける理由があるのね」というように。

克行を否定するのではなく、少しでも分かろうとしよう。そう考えて根気強く関わるようにしたら、少しずつコミュニケーションが取れるようになった気がします。

もっと克行の考えていることを知りたい、分かりたいと思って、3年ほど前にチャネリングの勉強をしたところ、ある日、こんなメッセージを受け取りました。

人生を楽しんでいるから、見守っていて

簡単な文章ですが、すごく深い意味を感じました。

克行が人生を楽しみたいのであれば、私があれこれ言ってもしょうがない。彼には彼の人生を生きているのだから、私はただ応援してあげればいいのだ、と改めて思ったのです。実はそれが、この本を書く直接の動機となりました。

真の共生社会を目指して

本書を書くにあたっては、事実を淡々と書いていくことを意識しました。

克行のこだわりや行動についても包み隠さず書いていますし、克行との関わり方で悩んだときに私はどこに相談に行き、何をしたかということも、できるだけ具体的に書いたつもりです。

自分の子どもや家族が障がいを持っているということを、あまり知られたくない人もいるでしょう。

子どもの障がいをオープンにしたいという気持ちがありながらも、やはり世間体が気になってしまったり、家族や親戚があまりいい顔をしなかったり、ということも少なくないようです。

私も、30年くらい前だったらきっと、望や克行のことを周囲に隠していたでしょう。

でも、時代の流れというのでしょうか。今は、障がいを持っている人たちを理解しようという社会になりつつあると、私は肌で感じています。

たとえば、石川県の特別支援学校の先生をした後、今は作家として活躍されている山元加子先生のように、「発達障がいでも、さまざまな分野で活躍している人たちがたくさんいる」というふうに発信してくださる方も増えています。

そのおかげだと思うのですが、家から一歩外に出てみると、自分が考えていた以上に周りの方たちが克行のことをサポートしてくださるのです。

子どもたちの将来を考えたとき、不安がないと言えばうそになります。
私や夫が老いて彼らの世話をできなくなったら、彼らはどうなるのか。

娘の望は人懐っこく社交的なので、グループホームに入って楽しく過ごせると思いますが、人と関わるのが苦手な克行には、それはなかなかむずかしいでしょう。

克行が一人でも自宅で過ごせるよう、自分でできることを増やしていきたいと思っていますが、彼自身が年老いて一人での生活ができなくなれば、施設に入ることになります。その時はその時。「どうにかなる」と思っています。

先のことを考えて不安にかられるよりも、障がいを持つ人も自分らしく楽しく生きられるよう社会になるよう、今の自分にできることをやっていく。

たとえば、障がいや自閉症のことを広く理解していただくために、講演会や交流会、シンポジウムなどを開いたりして、発信していきたいと考えています。

私が目指すのは、障がいのあるなしに関わらず、誰もが自分の個性を活かして気持ちよく過ごせる、バリアフリーな共生社会をつくること。

この本が一人でも多くの方の目に留まり、共生の輪が広がる一つのきっかけとなったら、うれしいです。

佐野美樹(さの・みき)プロフィール
1965年、東京都江戸川区生まれ。山梨県山梨市在住。
看護師、保健師として働く。
現在、共生型デイサービス「またあした富士川」勤務。
大原医療保育スポーツ専門学校 甲府校の保育科臨時講師も務める。
2015年より、心と体を元気にするための「健康サロン美樹」を経営。その傍ら、夫の果樹園や野菜づくりの手伝い、販売を行っている。

佐野美樹さんの著書『こだわり克之の笑顔』
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