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『ママの背中は竜巻だ!!』あらいさゆりさんの著者インタビュー

22年11月に『ママの背中は竜巻だ!!』を出版したあらいさゆりさん。
この本には、生きづらさを抱えて不登校になった3人の子どもたちと、あらいさんの日常がつづられています。子どもたちとのゆったりとした、宝石のような時間——でも、ここにたどり着くまでには、たくさんの悩み、苦しみの日々がありました。そこからどうやって、この幸せを見つけたのか……。

今回、もり塾「ブックライター・編集ライター養成コース」の講義の一環として、人物インタビューを得意とする鈴木裕子さんに、あらいさんのインタビューをしていただき、記事としてまとめていただきました。

目次

著者インタビュー
あらいさゆり『ママの背中は竜巻だ!!』

我が家には、中学3年生の長女・凜、小学校6年生の長男・龍、小学校3年生の次女・柚という3人の子どもがいます。

彼らはみな、いわゆる不登校児です。

というと、「大変ね」と思われるかもしれません。確かに、かつては悩み苦しんだ時期が5年ほどありました。

よそのお子さんたちは毎朝、ランドセルを背負って元気に「行ってきまーす!」と言って、お友達と楽しそうにおしゃべりしながら学校へ向かっていきます。

その様子を目にすると、「こんなふうに、普通に学校に行って、帰るという当たり前のことが、なぜ我が家ではできないんだろう」と涙が溢れ、「私は子育てがうまくできないダメな母親」と、落ち込む毎日でした。

そんな私を救ってくれたのは、幼稚園の園長先生がかけてくださった言葉です。

「同じ時期に植えた2本のアンズの苗木。
一方は早く成長し、花が咲き、実となった。もう一方の苗木は成長も遅く、花すらまだ咲かない。しかし、遅咲きの花についた実は、格別の甘さだった」

ハッとしました。

「そうだ、この子たちに合わせた子育てをすればいいんだ!」

肩から力がふっと抜け、心が軽くなったことを今でも憶えています。

現在も、子どもたちは学校へ行ったり、行かなかったりの状態が続いていますが、私はもう悩んでいません。子どもたちと一緒に過ごす時間を心から楽しんでいます。
 
どのようにしてここまで辿り着くことができたのか。私と同じように、生きづらさを抱えた子どもを持っているお母さんに読んでもらえたらと書き始めたのが、本書です。

不登校=悪いこと?

結婚を機に地元の奈良を離れ、横浜で暮らすようになりました。

環境の違いに戸惑ったり、近くに気軽に相談できる人がいなかったこともあって心の調子を崩し、そのためかしばらく子どもに恵まれませんでした。

それだけに、長女を授かった時はとてもうれしく、その後も順調に2人目、3人目と家族が増えていくことに幸せを感じていました。

ただ、3人とも、どうにも育てにくいのです。とくに龍は、幼稚園の年長さんに上がったくらいから「行きたくない」と言うようになりました。

また、彼には頑固な面があって、着るものにしても、お気に入りの素材があり、胸にお猿さんのイラストが描かれているTシャツ以外は着てくれないのです。

小学校に上がる手前の診断で、龍は、発達にちょっと凸凹があり、こだわりが強く、対人関係が苦手な自閉スペクトラム症であることがわかりました。

そうやって、最初のうちは龍にだけ手がかかっていたのですが、そのうちに長女の凜が
「龍は家にいるのに、どうして私は学校に行かなくちゃいけないの?」と言い始めました。

「お腹が痛い」と学校を休む日が増え、ついに不登校に。小学校4年生の時です。

末っ子の柚は、何が原因だったのかわかりませんが、小学校1年生の夏休み以降、学校に行かなくなりました。

我が子が3人とも不登校になってしまった。どうすればいいのだろうと途方に暮れている時、ふと幼稚園の園長先生の言葉を思い出しました。

あの時、子どもたちそれぞれに合った育て方をすればいいと気づいたはずなのに、いつしか「普通は」「〜べき」という考え方にとらわれ、子どもたちを枠にはめようと一生懸命になっていた。

それは子どもたちのためでというより、周りから「いいお母さん」「ちゃんと子育てをしている」と思われたいという、私の勝手な思いから作られた枠だったのかもしれません。

そこで、考え方を少し変えてみました。我が子がみな不登校であることを、私は困りごととして捉えていたけれど、果たしてそうだろうか。

もしこの子たちが学校に行っていたら、物理的に家での時間は少なくなってしまい、私と接する時間もないまま一日が終わってしまう。

でも今は、親子で過ごす時間がたっぷりあり、それによって学校教育に代わる、何かいいことがあるに違いない。

そう考えた時、私にできることは、子どもたちと一緒に過ごした時間を書き留めておくことだ、と思いました。

実はその少し前に、龍が通う学校のスクールカウンセラーとお話をした時、
「龍君とのエピソードを、メモ書き程度でいいので書き残しておいていただけませんか。同じように学校に行けないお子さんを持つお母さんの参考になるかもしれません」と言われていたのです。

子どもを通じて自分自身と向き合う

子どもたちとのやりとりを書き留めるようになって、あらためて3人それぞれと向き合いました。

すると、私が「困った」と思っていたことが、子どもたちの個性、しかも長所だったりすることに気づいたのです。

たとえば、凜は自分から「やりたい」と言って始めた習い事を途中でやめてばかり。そろばんの次は器械体操、その次はテニスと、いずれもそこそこ上達するのに続かず、私は頭を悩ませていました。

でも、「やめたい」と言った時のことを思い返すと、「もっと楽しいことを見つけたから」「上のクラスに上がりたいのか、わからない」というふうに、彼女なりにきちんとした理由がありました。

それを私がなかなか受け入れられなかったのは、「途中で投げ出すのは悪いこと」と思い込んでいたからです。

中学、高校と6年間、私は1日も学校を休むことなく皆勤賞をもらいました。

熱があっても大雪が降っても「ここで休んだら今までの頑張りが水の泡になる」と思って。

本当は「行きたくない」と思う日もあったのに、当時は変なこだわりがあって、何がなんでも行かなくてはと考えていたのです。

でも、「一度始めたことは、やり通さなければいけない」というのは私の中での正しさであって、それをそのまま子どもに押し付けるのは間違っている。

遅ればせながら、そう気がつきました。そして、まずは自分の中にある「〜ねばならない」という枠を取り払うことにしたのです。
すると、凜に対する見方が変わってきました。彼女が習い事を途中でやめるのは、本当にやりたいことを見つけるためなのではないか。

私と違い、やりたくないことを手放す勇気があるのかもしれない。私も凜のように、自分の気持ちに正直になってみよう……。気づいたら、こわばっていた心がほぐれ、体もとても楽になっていました。

同じように、龍や柚からも私はたくさんのことを教えてもらっていることに気がつきました。

それによって、子どもたちとは母と子というより一人の人間同士として向き合えるように。「いいお母さんだと思われたい」という気持ちはすっかりなくなり、家の中に穏やかな空気が流れるようになりました。

「ママがやさしくなった」

このようなエピソードがどなたかのお役に立てるなら、ただ書き留めておくだけでなく1冊の本にまとめたい。

そう考えて出版プロデューサーに相談を持ちかけ、本格的に原稿を書くことになりました。ところが、人様に読んでいただける文章をどうやったら書けるのかわからない。泣きながらパソコンに向かう日も少なくありませんでした。

でも、「もう、やめよう」とは思いませんでした。子どもたちとのやりとりを思い返しながら書くことが楽しかったからです。

気分が乗ると、夕食後の洗い物もそのままにして食卓で書き始め、気がついたら朝になっていたことも。

以前は子どもたちに「早く寝なさい」とうるさく言っていましたが、何かに夢中になると時間を忘れてしまうことがわかって、叱らなくなりました。子どもたちは「ママがやさしくなった」とよろこんでいます。

本書をまとめたことで、子どもを変えようとするのではなく、まず自分が変わることが大切だと実感しました。

私自身が、自分の心に正直になる。そうすると気持ちが楽になり、子どもたちの凸凹な部分を「素敵な個性」と捉えられるようになったのです。

ちなみに本書のタイトル『ママの背中は竜巻だ!!』は、感受性が豊かで空想が大好きな柚が、お風呂で私の背中に石鹸の泡を乗せながら言った言葉です。

「竜巻はぐるぐる回って、雨を降らせて、いろんなものを流してくれる。ママの中にある嫌なことも竜巻が吸い取ってくれます」

こんな、ちょっと変わった、でも楽しい我が家の様子をお伝えすることで、少しでもどなたかのお力になることができたら幸せに思います。

(ライター・鈴木裕子)

あらいさゆりからのメッセージ

BGM「under the snowy sky」by のる

フリーランス・ライター
鈴木裕子 SUZUKI,Yuko
【略歴】
東京女子大学文理学部史学科卒業後、心理学者・三田悠之事務所に秘書として勤務。その後、フリーランスのライターとして活動を始め、現在に至る。女性誌を中心に、人物インタビュー、心とからだ、食などの分野で取材・執筆を続けるかたわら、伝統文化や「技」「職」「食」をキーワードに独自に取材を行っている。

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